ジュリアン・オピー展(2005)

 谷中にある古い銭湯をリユースしたギャラリー「SCAI THE BATHHOUSE」で、ジュリアン・オピーの展覧会が開かれていた。翌日で終了なのでギリギリだったが、何とか行くことができた。谷中を訪れたのは初めてだったが、都心と時間の流れが隔絶されているようで、どこかの地方都市に迷い込んだみたいな錯覚をおぼえた。こんなところに現代美術のギャラリーなんてあるのだろうか、と思える場所にギャラリーはあった。

 ジュリアン・オピーは、目が点のようなキャラクターのポートレート(ブラーのベスト盤のジャケット)や抜けのいい風景画(セイント・エティエンヌ『SOUND OF WATER』などのジャケット)で有名なアーティスト。ぼくがイラストを描き始めた頃に彼の絵がちょうど脚光を浴びていて、ぼくも彼と同じくMacのIllustratorを画材に使っていたこともあり、彼の作品には少なからず影響を受けた、というか励みになっていた。

 今回の展示は基本的には彼のこれまでの路線を踏襲したものだったけど、普通の展示のほかに、彼の絵をFLASHアニメーション化した作品がいくつか液晶モニタで上映されていて、それが面白かった。風景だったら湖面が揺れる様子、人物だったら口や眉をちょっと動かして微笑んだり悲しんだりする表情、女の子が歩くときの腰の動き、それらが延々とループする。湖面のきらめきは2、3コマの繰り返しにすぎないのにまるで本物の風景みたいで、飽きずにずっと見ていたくなる。FLASHで絵やデザインを動かしてみたいとずっと思っているのだが、自分ならではのやり方はないかとずっと探していた。そのためのヒントが少し見つかった気がした。

自費出版の本展

 6月1日から青山のスパイラルマーケットで、「自費出版の本展」が開催される。先日デザインを終えたばかりの、柴田智子 with 浅倉大介のシングル「夢の続き 〜Challenge For The Future〜」(6月22日発売)でも素晴らしいイラストレーションを描いてくれた北村範史さんのオムニバス作品集「S」や、この間紹介したsonesの本「some tenderness」も展示・販売されるとのこと。ほかの参加者の本も面白そう。写真家の原田奈々さんの名前もあるから、原田郁子さんとコラボレートした写真集「ピアニスト」も出るかも。ぼくもずっと計画中のまま止まっている自費出版本のプランがあるので、これを見てまたやる気を起こそうと思っている。

追記(6月1日):さっそく観に行ってきた。
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「our songs」のこと

 5月8日(日)、原宿のペーターズショップ アンド ギャラリーで、小池アミイゴさん主催の企画展「カフェばか日誌」のスペシャルライブ「our songs」を観た。この展覧会にはハナレグミ等でよく一緒に仕事をしているイラストレーター北村範史さんの作品も展示されていると聞き、できるだけ早く行きたいと思っていた。が、GWの後半早々に鼻アレルギーと風邪で喉を痛めて声が出なくなってしまい、ようやく具合が良くなったのでスケジュールを調べてみたら、その日が偶然ライブの日だったという次第。

 今回の企画展は、福岡にあるカフェ“sones”と小池さんの周りに集まる仲間たちによる交流(まさに“スモール・サークル・オブ・フレンズ”)をもとに実現したのだという。sonesが最近出版したばかりの丁寧なつくりの本「サム・テンダネス」には、北村さんや小池さんの作品も掲載されている。この日はsonesのスタッフによる一日カフェも出店して、ギャラリー内はとても賑わっていた。久々に顔を見る人、よく知っている人、初めて会う人……狭いスペースの中でいろんな出会いがあって楽しかった。そして何より不思議だったのは、ギャラリー全体をとりまく空気がとてもやわらかくてあたたかいことだった。コーヒーを入れてくれるsonesのスタッフ、懸命に働くギャラリーの女性たち(かつてイラストレーターとしてここで展示をしたときにお世話になった)、小池さんと交流のある仲間たち、出演するバンドのメンバー、その場に集まるお客さん……すべてが優しく、外に向かって開かれていた。ライブにはいろんなミュージシャンが登場したが(ハナレグミ横浜公演にゲストで出た今野英明さんも!)、最後に演奏したmount sugarという女性ヴォーカルとアコースティックギターによるユニットの歌が、切なくあたたかくて、長いライブのピリオドにふさわしかった。

 ライブが終わってから北村さんやスタッフにお礼を言ってギャラリーをあとにし、歩きながらずっと灯のように心に残るあたたかい気持ちについて考えた。この日のイベントがありがちな内輪の集まりにならずきちんと外に開かれていたのは、小池さんの人と人をつなぐ力もさることながら、sonesやペーターズのスタッフの“もてなしの心”が大きかったと思う。ペーターズでイラストの展示をしていた頃(夏)、ギャラリーを訪ねると、女性スタッフが冷たいペットボトルのお茶をコップに注いでくれて、ぼくはそれを飲みながら、ギャラリーにあるイームズの椅子に座っていろんな話をしたものだった。そのコップ一杯のお茶と座り心地のいい椅子と、スタッフのもてなしの心によって生まれる小さな陽だまりのような空間が、ぼくにはとてもうれしかった。もし自分の事務所みたいなものができたら、小さくても素敵な椅子をそこに置き、立ち寄った人にコップ一杯のお茶を差し出せるような場所でありたい。そんなふうに思いながら「デザイン別室」という小さな仕事場を設けてもらうに至ったことを、きのうはっきりと思い出した。思い出させてくれてありがとう。

和田誠のグラフィックデザインについて

 5月9日(月)から、銀座にあるギンザグラフィックギャラリーで企画展「和田誠のグラフィックデザイン」が開かれる。和田誠さんといえば「週刊文春」の表紙やポートレートなどイラストレーターとしての仕事が有名だが、ぼくにとっては、柳原良平、横尾忠則、山名文夫ほかと並ぶ、黎明期の広告業界を舞台に活躍したグラフィック・デザイナーとしての印象が強い。広告も雑誌もその他の分野もいちばん活気があった1960年代、いまのようにグラフィック・デザインとイラストレーションが分業化されていなかった頃に、自分で絵を描いてデザインもし、さらにはアニメーション制作や執筆、編集、作曲など、興味のおもむくままにいろんなことに次々と積極的にトライしていった。そのフットワークの軽さにあこがれてしまう。

 おそらく誰もが知っている和田さんのグラフィック・デザイナーとしての代表作は、たばこの「ハイライト」のパッケージだろう。発売以来一度もリニューアルされることなく愛され続けたシンプルなデザイン。和田さんの仕事でぼくが個人的に最も好きなのは、草森紳一によるナチス研究本『ナチス・プロパガンダ絶対の宣伝』シリーズの装幀。全体に赤と黒で統一された色調。赤一色のベタにナチスのシンボルを中央に置いただけの外箱。シンプルを極め、デザイン的にはほとんど何もしないことによって、本の内容と意味性が静かに強く伝わってくる。

 今回の企画展の紹介ページで著書『時間旅行』から引用されていた、「デザインはあくまでも人のためにあって、限りなく縁の下の力持ちだから、自己主張しないものだと思っている。」という和田さんのデザインについての考え方は、ぼくの「器としてのデザイン」の発想に近い。自己主張から離れてそこにあるものにひたすら寄り添うことによって、その作品の最終到達点におのずと導かれる、みたいなことは確かにある。ただそれは簡単なようでいて、とても難しいことだと思う。匿名であるためには何よりも基礎的なスキルが必要だし、和田さんもその地点にたどり着くまでにはきっと星の数ほどの(それこそ自分の仕事の回顧を“時間旅行”と呼んでしまえるくらいの)経験を必要としたことだろう。和田さんと同じ地点に自分もたどり着けるとは到底思えないけれど、いまはとにかく“経験”がもっともっとほしいところ。

追記(5月19日):観に行ってきた。
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サイキックカルタ

psychic ブックファースト渋谷店地下で500円にて購入。“念視によるカルタ合戦”の様子を収めた、12ページの小さな写真本(製本は厚紙合紙+PPで豪華)。とにかく笑える。写真と写真の間に漂う絶妙な間と真剣さが、まるで一流のコントのよう。いま調べたら、この本と同内容の写真展を、ギャラリー360°(表参道)で今年の1月に開いていたらしい。見たかった……。発行者(有限会社グラパチ)のHPは只今工事中。
 

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