ピット・イン

ピット・イン

 同世代の仲間で今年、健康上の理由により休みを余儀なくされたという人が少なくない。ぼくもご多分にもれず、今年の初夏に短期間だが胃腸系の病気で初めての入院を経験した。幸い手術の必要もなくすぐに退院できたが、精神的なショックが大きく、健康とも不健康ともいえないような不調がしばらく尾を引いた。それまでは休まずに働けるのが唯一のとりえといっていいくらい、自分のことを健康体だと信じて疑わなかった。原因は直近の仕事の過密によるストレスだったが、実際のところ、健康という幻想に寄りかかって不規則な生活や暴飲暴食など無理を続けてきた十年分ほどのツケが、ここにきて一気にのしかかったのではないか。

 世間一般の目から見れば、不運な、お払いでもしたくなるような時期ということになるのだろう。しかしぼくにはそれが不幸な出来事にはどうしても思えなかった。不規則だった生活習慣は病気を境に、入院生活と同じ朝型に改まり、食事も簡単だが三食きちんと食べるようになった。休養を兼ねて自宅で仕事を始めるようになってからテレビを観る時間が格段に増え、夜7時台のバラエティやお笑い番組に夢中になった。そんな時間に家にいるなんて以前はありえなかった。人生の中心軸が仕事から家庭にシフトし、ただ現在を楽しむだけでなく、未来のことを考える余裕が生まれてきた。病気に直面したとき、クライアントや仲間たちが仕事よりぼくの体のことを優先して、スケジュールを融通してくれたり温かい言葉をかけてくれたのも本当に有難いことだった。

 休むことは活動の対極にあり、ネガティブなことだとずっと思っていた。カーレースには「ピット・イン」と呼ばれる調整のための小休止があって、一見他の車に遅れをとるようにみえるこの時間をきちんと取ることが、最終的なタイムの向上に大いにつながるのだという。長い人生、いくら頑張ってもどうにもならない時期というのがあるものだ。次の機会に備えてひたすら待つ、あるいはのんびり休むことだって、元気に活動するのと同じくらいの価値があるといまは思っている。最後に、そのことを説得力ある言葉でまとめてくれている“人生の先輩”山口洋さんの(少し前の)日記にリンクを貼っておく。「人間の落下を止められるのは愛だけだ」。ぼくも心からそう思う。

>>ROCK’N ROLL DIARY|峰は今日も快晴だ




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