平野甲賀、再び(平野甲賀装幀の本/僕の描き文字)

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平野甲賀装幀の本

 「平野甲賀装幀の本」(リブロポート)。既に絶版だが、先日の平野甲賀展で実物を見てどうしても欲しくなり、贔屓にしている吉祥寺の古本屋「百年」で見つけて早速注文した。1985年刊行で、フリーになった1964年から1984年までの装幀と、黒テント時代の演劇ポスターが多数収められている。初期の晶文社の装幀や植草甚一シリーズがまとめて見られるのもありがたかった。

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 平野さんといえば80年代以降の「深夜特急」「ロートレック荘事件」などの描き文字の印象が強く、それ以外にもたくさんの仕事を手がけていたことをこの作品集で初めて知った。描き文字のもの、写植だけのもの、イラストや写真とのコンビネーション、コラージュ……といろいろ。描き文字は勿論素晴らしいが決してそれに酔っている風でもなく、いろんな手法の中からその対象に適したやり方を冷静に選んでいる印象がある。そして、どれにも迷いがなく、自由。平野甲賀展で描き文字のスケッチを見たときもそう思った。この文字とこの文字は何ミリずれていて…みたいな細かいことは気にせず、ぽんぽんと文字を置いていく。細部が多少曲がっていても、全体を引いて見ると確かなバランスに支えられている。デザインにおいて「揃える」こと、ジャストであることは比較的易しいが、「ズレ」を出すこと、バラすことはほんとうに難しい。ガイドラインやベースラインという航路から一旦離れたら、あとはセンスと己に対する全幅の信頼をたよりに船を進めていくしかないのだ。
 
 
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 展覧会場で買ったエッセイ集「僕の描き文字」(みすず書房)には、雑誌「ワンダーランド」(のちの「宝島」)を共に作った編集者の津野海太郎と90年代末に「季刊・本とコンピュータ」を立ち上げた平野さんらしく、IllustratorやInDesignにトライする様子が伺える記述もあった。《せっかくマックでいこうと決心したわけだから、これを機会にあらゆる道具や手続きを、それからアシスタントまでも全部この中に入れちゃって、マックだけで済ませたいと思っている。》 これが1994年に書かれた原稿というから驚く。あの頃、DTPに意識的に向かっていたのは立花ハジメか松本弦人くらいではなかったか。平野さんのように写植の時代を濃密に過ごしてきたベテランが、出たばかりで不備の多かったであろうMacに拒否反応を示すのではなく、積極的にその良さを見つけて自分のモノにしていく……その姿勢が素晴らしいと思った。 

>>タイポグラフィの世界|描き文字考 平野甲賀╳川畑直道

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