はじめの一歩

 ぼくが初めて自社ではなく他社からお金をいただいてデザインした、1998年の仕事。

 宮沢和史ファースト・ソロ・アルバム『Sixteenth Moon』の雑誌広告。写真は、仁礼博さんが、ロンドン・レコーディング中に撮影したもの。アルバムのビジュアル・コーディネーション(ロンドン在住のデザイナーとのメールでのやりとり)にたまたま関わったのをきっかけに、国内のライブ会場で販売されたツアー・パンフレット/写真集のデザイン、アルバムの広告デザインにも関わらせてもらうことができた。

 ロンドンで撮影された大量の写真の中からこの一点を選んだのは、たしか宮沢和史の顔の陰影が月の表面を連想させたから。デザイナーから届いたフォントと、漢字ロゴ、手持ちの書体を組み合わせただけの、いまにして見れば簡素でデザインとも言いがたいものだけど、これが紛れもないぼくの商業デザイナーとしての小さな一歩だったと記憶している。

 宮沢和史がこの頃イギリス、ブラジル(セカンド・アルバム『AFROSICK』)の2つの国で初めて刻んだソロ活動の第一歩は、その後、歩みを重ねるごとに確実に大きさと深さを増し、やがて世界中のいろんな街に刻まれることになった。今年初めのヨーロッパ・ツアーに続いて、いまはメキシコ、キューバなど5カ国7都市を回る中南米ツアーの真っ最中。本当に凄い創作・表現本能の人だと思う。表現したいことが次から次へとあふれ出してきて、周りの世界を包んでいく。心からうらやましい。そして応援したくなる。

 ぼくなんかと比べるのは野暮だけど、もし彼の領域に少しでも近付こうとするならば、とにかく休む間もないくらいたくさんの仕事と見聞の経験を積み重ねること。そして、小さくまとまってしまわないこと、が大事だと思っている。MIYAが自らの海外での成功に酔って満足してしまったり、ジョアン・ジルベルトや矢野顕子やその他の先人たちと自分自身を同格に置いてしまったなら、今頃きっと中南米でツアーなんかしていないだろう。ぼくももっと素早く、もっと遠くへ走っていきたい。そのためには、今までとは少々違った形の努力が必要になるような、そんな予感がする。

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