福山〜宮島(1)和田誠の絵本の仕事

はじめに—“僕らが旅に出る理由”

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 THE BOOMの2005年ツアー“Field of Songs”をお台場・潮風公園で観て、面白かったのでもう一度違う場所で観てみたいと思ったのが、そもそものはじまり。今回のツアーは、KiiiiiiiのLakin’がツアーのメインビジュアルとグッズのイラストを全面的に担当していることもあって、いつにもましてTHE BOOMに対して親しみがわいていて、稚内でもサハリンでもその気になれば飛んでいきたい気分だった。そんな中で宮島を選んだのは、翌日の宮沢和史弾き語りライブ「寄り道」と併せて、三連休で行きやすいスケジュールだったのと、もうひとつは、雑誌「Pooka」で紹介されていたふくやま美術館「和田誠の絵本の仕事」展の、ちょうどはじまりの時期だったから。できれば尾道や広島などゆっくり立ち寄りたい気分だったが、THE BOOMと宮沢和史、ふたつのライブのスケジュールを考えると、あれもこれもと欲張るのはむずかしく、結局初日の広島行きの新幹線を途中下車してちょっとだけ福山に立ち寄ることにした。

 
2005/07/17
「和田誠の絵本の仕事」ふくやま美術館

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 5月にgggで行なわれたグラフィック・デザイン展と同じように、今回は和田さんの絵本の仕事だけを集めた展示だった。初期の自費出版もしくはそれに近い形で出していた本にはじまり、谷川俊太郎との共著になる代表作の「あな」「とぶ」、近年の「絵本パパラギ」や銅版画に挑戦した「ねこのシジミ」「ガクの絵本」などなど。

 作品は、カラーで描かれたものは原画が、色指定のものは、墨版の原画+指定紙+実際の刷り上がりの三点が同時に並べて展示されていた。「あな」の場合はこんな感じ。

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「和田誠の絵本の仕事」カタログより

 トレペがかけられ赤字が入った指定紙には、すべての色が、C40M20Y10のような色の掛け合わせで記入されている。はっきりした色から微妙なニュアンスの色まで、色のパーセンテージがまるで絵の具のパレットかスウォッチ(=Illustratorのカラーパレット)みたいに正確に脳に記憶されているとしたら、それはスゴいことだ。そういうことに気付くだけでも、自分にとってものすごく力や励みになる。和田さんはやっぱりデザイナーなんだなと思う。8〜9年前、初めてカラーのデザイン仕事をもらったとき、Macでモノクロ出力したものに色指定して入稿したことを思い出したりもした。指定の仕方や色の並べ方など、デザイナーならではのセンスが端々から伝わってくる。

 デザインをしていていちばんうれしい時間のひとつは、イラストレーター(写真家でも)から上がりの原画をいただくとき。作家からの原画には、印刷された/データになったイラストとはまた異なる描き手の思いや苦労の痕跡が残っていて、それがずっしりと重いバトンとなって、受け取るぼくの心に響いてくる。今でも思い出されるのは、矢野顕子さんのツアーパンフレットでイラストをお願いした上田三根子さんのマーカーのしみ込んだ原画や、柳原良平先生から大事に梱包されて届いた大きな切り絵、デジタルデータでも細かいパスやグラデに心がこめられているEd TSUWAKIさんのアートワーク……。それらを真っ先に見ることができるのは、ぼくたちデザイナーや編集者だけに許されたよろこびである。美術館の壁にずらりと並んだ原画や指定紙の数々から、そのとき感じた興奮に似たものが伝わってきて、短い時間ながら幸せな気分を味わうことができた。

 もちろん展示作品のほとんどは実際の絵本もそばに置いてあって、自由に読めるようになっている。とりわけ印象に残ったのは、詩人の工藤直子さんのお話が泣けて絵も美しい「密林一きれいなひょうのはなし」(作品社)、空を飛ぶ感覚がひたすら気持ちいい谷川さんとの「とぶ」(福音館書店)、特色3色の色指定と和田さんが丁寧に訳した日本語のお話も含めて完璧な、R.L.スティーブンソン作の「旅」(ほるぷ出版)。ほかにも「絵本パパラギ」(立風書房)のテクノな画風は、外国人作家?と思えるほどクール。初期の谷川さんとの私家版「しりとり」も、オール墨版(たった一か所だけ何故か色が付いている)で、フランスの画家シネやサンペみたいにかっこいい。

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「しりとり」谷川俊太郎+和田誠(いそっぷ社)

 偉大な作家の作品を目の前にして、湧き出てくる感情はふたつある。その人に近付きたいと思う憧れと、いや決して近付けないと感じてしまう畏れ。今回の和田さんの展示を見て、デザイナーの自分は近付きたいと憧れて、イラストレーターの自分は近付けないと畏れた。たぶん今後はデザイナーのぼくが、おびえるイラストレーターのぼくの手を取って、新しい場所へと連れて行き、そしてやがてひとつになるのだろう。




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