自費出版の本展

 6月1日から青山のスパイラルマーケットで、「自費出版の本展」が開催される。先日デザインを終えたばかりの、柴田智子 with 浅倉大介のシングル「夢の続き 〜Challenge For The Future〜」(6月22日発売)でも素晴らしいイラストレーションを描いてくれた北村範史さんのオムニバス作品集「S」や、この間紹介したsonesの本「some tenderness」も展示・販売されるとのこと。ほかの参加者の本も面白そう。写真家の原田奈々さんの名前もあるから、原田郁子さんとコラボレートした写真集「ピアニスト」も出るかも。ぼくもずっと計画中のまま止まっている自費出版本のプランがあるので、これを見てまたやる気を起こそうと思っている。

追記(6月1日):さっそく観に行ってきた。
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アイデア|大特集:日本のタイポグラフィ1995-2005

 高いので特集により時々買うデザイン雑誌『アイデア』の5月号は、「大特集:日本のタイポグラフィ1995-2005」。55人のデザイナーによるエディトリアル・デザインの仕事(書籍を中心に、雑誌、宣伝物など)が一冊まるごと使って紹介されている。鈴木成一、立花文穂、葛西薫、祖父江慎、中島英樹、服部一成、菊地信義、仲條正義など、日本を代表するデザイナー・装幀家たちが名を連ねている。紹介された作品の多くに使用書体がクレジットされているのがとても役に立つ。

 「1995-2005」という区切りがまた絶妙。この十年は、組版が写植オンリーからDTPへと移行していく変わり目の時期だったから。特集の巻末にまとめられたデザイナーの略歴とコメントの中で、アジール・デザインの佐藤直樹さんが、この十年の面白い動きとしてThe Designers Republic(DR)と丸明オールドを上げていたのが印象的だった。

 佐藤さんのコメントをヒントにして、日本でのタイポグラフィの十年を大ざっぱに前半後半に分けてみた。前半五年は、Macが普及してDTPの地盤が作られていく一方、コンピュータなしではありえない新しい発想によるタイポグラフィやグラフィックのムーブメントが巻き起こった時期(DRやtomatoとフォロワーたち、日英のフォントブーム…)。そして後半五年は、欣喜堂“和字書体シリーズ”や片岡朗さんの“丸明オールド”(エイワン)など、明治期の書体の再発見により作られた新しいデジタルフォント(写植ではない)が次々と登場した時期。まあ、音楽にたとえれば、前半がヒップホップ/テクノで、後半がレアグルーヴか。

 前半に対応しているデザイナーは、中島英樹、佐藤直樹、稲葉英樹(樹×3)、後半に対応しているのが、鈴木成一、有山達也、浅葉克己……(活躍の時期とは無関係)。鈴木さんは、写植オンリーに近い装幀の世界に積極的にDTPを取り入れてきた人。2002年に出た宮沢和史/中川正子の写真集『旅の響き』でもいち早く丸明オールドを全面的に使っていた。そして写植の象徴みたいな存在だった浅葉さんまでもが、丸明オールドをひっさげてデジタルの世界へ…。ようやくデジタルでも写植に比肩するような(というよりデジタルならではの)組版表現が可能になってきた、というのが2005年現在の状況だろう。

 ここ数カ月、フォントや組版にとても興味を持っていろいろ調べていく中で、今まで自分のやってきたことは何だったんだと思えてしまうようなことに何度も遭遇してしまった(ま、常にその連続なんだけど……今回は特に)。一時期はWebデザインの世界に行ってみようとか半ば本気で考えていたけど、それはそれとして今は紙の世界でまだまだやれることがあるし、やっていくべきだと強く感じている。

広告批評|特集 キユーピーのクリエイティブ

 広告批評5月号の特集は「キユーピーのクリエイティブ」。キユーピーマヨネーズの歴代の広告・TV-CMを過去から現在まで並べ、制作に関わった人々の声を織り交ぜた簡潔でわかりやすい構成だった。

 40年以上も前から現在までずっとキユーピーの仕事に関わり続けているコピーライターの秋山晶さんは1936年生まれ、アートディレクターの細谷巌さんは1935年生まれ。どちらもぼくの父母とほぼ同い年である。二人とも広告会社ライトパブリシティの会長(秋山さん)と社長(細谷さん)。この間書いた和田誠さんがライトに入社したときの上司だったというからすごい。次々と包丁で切られていく野菜の断面に、Helvetica Condencedの書体で「speed!」と文字が乗るだけの広告・CMを、2002年に作ったのもこの二人(この仕事によりACCグランプリ等を受賞)。こういう人たちが70歳に近づいてもなお現役で、常にサラダのように新鮮な広告を作り続けているのを見ていると、老化することや才能が枯渇することに対して自分が常日頃抱いている“危機感”が、いったい何ほどのものかと思えてくる。若さとは年齢に決して支配されないものだということを、同じように現役で働く職人の父からも昨年教えられたが、ここに並べられた仕事や二人のインタビューが語りかけているのもつまりはそういうこと。怖れることは何もない。

 元ライトパブリシティのアートディレクター、服部一成さんはキユーピーハーフの雑誌広告にずっと関わっている。手書きが特徴的な、いろんな女性誌で見かける例の広告。服部さんのプライベートとパブリックの境が崩れてしまったかのような、キユーピーやその他の仕事に、ぼくはいまボディーブローのように深く影響を受けている。具体的に何かを模倣したいわけではもちろんないけど、最近、デザインするときはいつも服部さんの仕事のことを念頭に置くまでになってしまっている。「デザインってほんとに自由でいいんだ」っていうことを服部さんの仕事は教えてくれた。そして、そういう表現の場をずっと与え続けているキユーピーってすごい会社だなと思う。

「our songs」のこと

 5月8日(日)、原宿のペーターズショップ アンド ギャラリーで、小池アミイゴさん主催の企画展「カフェばか日誌」のスペシャルライブ「our songs」を観た。この展覧会にはハナレグミ等でよく一緒に仕事をしているイラストレーター北村範史さんの作品も展示されていると聞き、できるだけ早く行きたいと思っていた。が、GWの後半早々に鼻アレルギーと風邪で喉を痛めて声が出なくなってしまい、ようやく具合が良くなったのでスケジュールを調べてみたら、その日が偶然ライブの日だったという次第。

 今回の企画展は、福岡にあるカフェ“sones”と小池さんの周りに集まる仲間たちによる交流(まさに“スモール・サークル・オブ・フレンズ”)をもとに実現したのだという。sonesが最近出版したばかりの丁寧なつくりの本「サム・テンダネス」には、北村さんや小池さんの作品も掲載されている。この日はsonesのスタッフによる一日カフェも出店して、ギャラリー内はとても賑わっていた。久々に顔を見る人、よく知っている人、初めて会う人……狭いスペースの中でいろんな出会いがあって楽しかった。そして何より不思議だったのは、ギャラリー全体をとりまく空気がとてもやわらかくてあたたかいことだった。コーヒーを入れてくれるsonesのスタッフ、懸命に働くギャラリーの女性たち(かつてイラストレーターとしてここで展示をしたときにお世話になった)、小池さんと交流のある仲間たち、出演するバンドのメンバー、その場に集まるお客さん……すべてが優しく、外に向かって開かれていた。ライブにはいろんなミュージシャンが登場したが(ハナレグミ横浜公演にゲストで出た今野英明さんも!)、最後に演奏したmount sugarという女性ヴォーカルとアコースティックギターによるユニットの歌が、切なくあたたかくて、長いライブのピリオドにふさわしかった。

 ライブが終わってから北村さんやスタッフにお礼を言ってギャラリーをあとにし、歩きながらずっと灯のように心に残るあたたかい気持ちについて考えた。この日のイベントがありがちな内輪の集まりにならずきちんと外に開かれていたのは、小池さんの人と人をつなぐ力もさることながら、sonesやペーターズのスタッフの“もてなしの心”が大きかったと思う。ペーターズでイラストの展示をしていた頃(夏)、ギャラリーを訪ねると、女性スタッフが冷たいペットボトルのお茶をコップに注いでくれて、ぼくはそれを飲みながら、ギャラリーにあるイームズの椅子に座っていろんな話をしたものだった。そのコップ一杯のお茶と座り心地のいい椅子と、スタッフのもてなしの心によって生まれる小さな陽だまりのような空間が、ぼくにはとてもうれしかった。もし自分の事務所みたいなものができたら、小さくても素敵な椅子をそこに置き、立ち寄った人にコップ一杯のお茶を差し出せるような場所でありたい。そんなふうに思いながら「デザイン別室」という小さな仕事場を設けてもらうに至ったことを、きのうはっきりと思い出した。思い出させてくれてありがとう。

和田誠のグラフィックデザインについて

 5月9日(月)から、銀座にあるギンザグラフィックギャラリーで企画展「和田誠のグラフィックデザイン」が開かれる。和田誠さんといえば「週刊文春」の表紙やポートレートなどイラストレーターとしての仕事が有名だが、ぼくにとっては、柳原良平、横尾忠則、山名文夫ほかと並ぶ、黎明期の広告業界を舞台に活躍したグラフィック・デザイナーとしての印象が強い。広告も雑誌もその他の分野もいちばん活気があった1960年代、いまのようにグラフィック・デザインとイラストレーションが分業化されていなかった頃に、自分で絵を描いてデザインもし、さらにはアニメーション制作や執筆、編集、作曲など、興味のおもむくままにいろんなことに次々と積極的にトライしていった。そのフットワークの軽さにあこがれてしまう。

 おそらく誰もが知っている和田さんのグラフィック・デザイナーとしての代表作は、たばこの「ハイライト」のパッケージだろう。発売以来一度もリニューアルされることなく愛され続けたシンプルなデザイン。和田さんの仕事でぼくが個人的に最も好きなのは、草森紳一によるナチス研究本『ナチス・プロパガンダ絶対の宣伝』シリーズの装幀。全体に赤と黒で統一された色調。赤一色のベタにナチスのシンボルを中央に置いただけの外箱。シンプルを極め、デザイン的にはほとんど何もしないことによって、本の内容と意味性が静かに強く伝わってくる。

 今回の企画展の紹介ページで著書『時間旅行』から引用されていた、「デザインはあくまでも人のためにあって、限りなく縁の下の力持ちだから、自己主張しないものだと思っている。」という和田さんのデザインについての考え方は、ぼくの「器としてのデザイン」の発想に近い。自己主張から離れてそこにあるものにひたすら寄り添うことによって、その作品の最終到達点におのずと導かれる、みたいなことは確かにある。ただそれは簡単なようでいて、とても難しいことだと思う。匿名であるためには何よりも基礎的なスキルが必要だし、和田さんもその地点にたどり着くまでにはきっと星の数ほどの(それこそ自分の仕事の回顧を“時間旅行”と呼んでしまえるくらいの)経験を必要としたことだろう。和田さんと同じ地点に自分もたどり着けるとは到底思えないけれど、いまはとにかく“経験”がもっともっとほしいところ。

追記(5月19日):観に行ってきた。
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